インプラント手術のトラブル

 インプラント手術のトラブルを挙げてみます。手術中のトラブルが中心ですが、手術後のトラブルっぽい例も考えてみます。

インプラント手術中のトラブル

インプラント手術中のトラブルが発生した場合、対処できるものから、取り返しのつかないケースまであります。
  • 下顎の神経損傷の事故
  • 上顎洞や鼻腔の事故
  • 血管損傷による出血事故
  • 骨のやけど

インプラント手術中のトラブル - 下顎の神経損傷の事故

 下顎の神経損傷の事故ですが、インプラント手術中に起こる事故で特に多いがこれです。CT(コンピューター・トモグラフィー)を使って骨の形状や神経の位置がわかるようになったため、神経損傷の事故は以前よりも大幅に減ったものの、今でも多い事故です。下顎骨中の神経は知覚神経であり、運動神経ではありませんので、顎が動かなかったり、筋肉が引きつったりするようなことはありませんが、麻酔をしたときのような神経麻痺が常にあります。
 万が一に神経の損傷が起きてしまった場合、ビタミンや薬物投与による治療を行って対処します。どこまで回復できるかは個人差によります。ただし、神経を完全に切断してしまった場合は回復不可能になってしまいます。

インプラント手術中のトラブル - 上顎洞や鼻腔の事故

 非常にまれですが、上顎洞や鼻腔の事故があります。呼吸器の一つで鼻腔とつながって空気を保有している上顎洞という上顎の上の空洞があります。上顎洞をインプラント埋め込み前のドリルで傷つけて化膿する蓄膿症のケースでは、他の副鼻腔にも感染が広がる危険性があります。
また、鼻腔の粘膜を傷つけて大量出血につながるケースも考えられます。

インプラント手術中のトラブル - 血管損傷による出血事故

 血管損傷による出血事故は、大きなものは動脈や舌の根元にある大きな血管を損傷してしまったりと、ドリルの操作を誤まることで起きます。また、脳梗塞の薬のように血液をサラサラにする薬を飲んでいる場合、治療中の止血が止めにくくなることがあります。このような患者は一時的に薬を止める必要があります。対処が遅れると危険なケースです。

インプラント手術中のトラブル - 骨のやけど

 骨の細胞は温度が5度上がると死んでしまうため、手術でドリルを使う際は、生理食塩水をかけて冷却しながら行います。それがうまくできていないと、骨が死んでしまうため、インプラント体の結合が上手くいかなってしまいます。そうなった場合はインプラント体を引きぬき、骨の再生を待って再度手術を行うことになります。

インプラント治療後のトラブル

インプラント治療後のトラブルとしては安定期間を無事に乗りきれなかったケースや、仕上がりの問題などが考えられます。

インプラント手術直後のトラブル

  • インプラント体がグラグラする
  • 周囲から膿が出てくる。腫れが続く。痛い。
これらはインプラント体を埋め込む手術が失敗していた可能性が高いです。手術中か手術直後に細菌感染した可能性が高いです。こうなるとインプラント体を除去しなければならない場合が多いです。安定期間を無事に乗りきれればインプラント治療の成功は目前なのですが、こうなってしまうこともあるのです。

インプラント治療終了後のトラブル

 次は、安定期間を無事に過ぎ、アバットメントをはめて人工歯を付けた後のトラブルです。
  • 舌やほおに当たる
  • よく噛めない
  • 人工歯がグラグラする
これらは対処が可能で、調整の範囲内でもあり、最後の仕上げがまだ済んでいないかったとみればトラブルのうちに入るかは微妙です。
  • 人工歯の色調や形の不調和
  • 歯肉が痩せて、インプラント体の金属部分が露出
  • インプラント体が斜めに埋まっており、出っ歯になってしまった
これらは治療の範囲に含まれない場合もあり、もともとインプラントの審美性には限界があるということです。事前に歯科医が詳しい説明を聞いておくことが大切です。
  • 痛い・腫れる・膿が出る
安定期間を無事に過ごして、人工歯を付けた後に化膿の症状がでるとしたら、衛生管理がうまくいっていないということでしょう。手術中の不手際は考えられませんので、自分の歯の手入れに問題があるのかもしれませんし、個人の手入れの限界かもしれません。
  • 治療費の請求額が予想以上に大きかった
大まかにどのくらいになるか口で聞くよりも、きちんと見積書で出してもらったほうが、このようなトラブルを防ぐことができます。

インプラント手術でのトラブルを防ぐ

 インプラント手術でトラブルを防ぐためにCTスキャンの画像データを利用することは非常に重要です。
 手術で偶発的な事故を防ぐためにも、インプラントを長期間使用するためにも、CTで骨の量や厚さ、立体的な形状、神経の位置、血管の位置の情報を正確に把握しておかなければなりません。
 CTの精度の高い立体映像データをパソコンに取り込み、コンピューターでより安全な手術計画を立てることで、安全な手術を行うことができます。
 CTのデータでインプラントを建てる位置、方向、深さなどが確定したら、その正確な情報を手術に利用するためのサージカルテンプレートというマウスピースのような型を作ります。
 サージカルテンプレートを顎にハメることにより、CT診断で決定した位置に向かってより確実にインプラントを埋め込むことができるのです。これで偶発的な事故が起きる確率が確実に減り、インプラント治療自体も綺麗に仕上がることは間違いないでしょう
 このようなCTガイドシステムを導入している歯科医・CT画像を治療に利用する技術を持った歯科医を見つけて治療を受ければ事故予防も確実です。
 実際は、CTスキャンを利用しない一般開業医は多く、レントゲンで十分という意見も多いです。CTスキャンは高額設備なので、歯科医院にはなくても歯科医紹介先の大学病院などでCTデータを取って利用している歯科医もいます。
 大学病院ではCT必ず撮ります。また、大学病院や大きな専門病院では口腔外科、麻酔科、補綴科、放射線科がチームを組んで一人の患者を診るため、一般の開業医よりも心強いです。